
今、空前の絵本ブームということをご存知ですか?1万部売れれば大ベストセラーと言われてきた絵本市場でしたが、これまでにないほど急激に売り上げを伸ばしています。3日で12万部を記録したり発売前から予約が殺到する絵本など驚異的なヒット作が生まれているのです。少子化を言われている時代になぜこんなにも絵本が売れ続けているのでしょう?その背景には今の消費者心理を読んだ商品戦略があります。今回は事例を元にヒットを生む要因について分析をしていきます。
1.大人を巻き込む型破りな世界観
絵本市場は2015年に309億円と14年比で6.6%売上が伸びています。(出版科学研究所より)では空前の絵本ブームの中で10万部以上の大ヒットを記録した絵本をご紹介しましょう。
3日で12万部を突破した
祖父の死をキッカケに生と死を考える男の子の物語
「このあとどうしちゃおう」(ヨシタケシンスケ著 ブロンズ新社)
続編も含め52万部の大ヒット
多くのママたちの涙を誘った話題作
「ママがおばけになっちゃった!」(のぶみ著 講談社)
23万部を突破!お笑いコンビ、キングコングの西野亮廣さん著
アート性の高い絵が若い女性から人気に
「えんとつ町のプペル」(にしのあきひろ著 幻冬舎)
絵本ヒットの火付け役となったのがブロンズ新社と言われています。もともと翻訳出版などを手掛けていましたが2000年に絵本に「シフト。16年の絵本売れ筋トップ10のうち5作品が同社のものです。ブロンズ新社の若槻真知子社長は「他社にない絵本をつくろうと新人作家の発掘をしてきた」と語ります。年間100冊以上の本を出し数でヒットを狙う出版業界の中で、ブロンズ社は12冊しか出版しないポリシーを持ち量よりも質を求め新人発掘をしてきました。
特にママに反響の大きかった「ママがおばけになちゃった!」(のぶみ著)は私も読みましたが、親が非常に感情移入できる内容です。この物語は突然ママが車にひかれて死んでしまい、おばけになったママが主人公である4歳のかんたろうを見守る親心とかんたろうの成長が描かれています。親の死をテーマにするというこれまで絵本の世界ではタブーのような内容ですが、このような親世代を巻き込んだ衝撃的な内容というのは絵本にとって斬新です。絵本ニーズが変わってきたと言えるのかもしれません。
児童図書編集長は「時代は変わった」と言う。
「今はリアルな言葉遣いで、親子のリアルな本音に迫れるかどうかがカギ」
2017年1月11日発行 経MJより
ということは幼児の絵本ニーズは、ファンタジーからドキュメンタリーへ移行したということなのでしょうか・・?いえ、どうやら違うようなのです。
ではもう少しヒットの要因分析を進めてみましょう!
2.あえてターゲットを変える真逆戦略
ヒットをしている絵本にはこれまでの絵本と明確に違うと言える商品戦略が1つあります。それは狙っているターゲット層が真逆だということです。通常の絵本はターゲットが「子供」です。当たり前ですが通常の絵本なら子供が気にいるような内容で作品をつくります。これまでの絵本の多くはファンタジーやほのぼの系、幼児が好きそうなキーワードをタイトルに入れ込み本を制作していました。つまり絵本の一次ターゲットは子供だったのです。
しかしヒットした絵本は第一ターゲットを親として商品戦略を打ち立てています。まず、絵本を買うお金を出すのは「親(主に母)」です。母親が絵本に興味を持ち教育上良いと思えれば二次ターゲットである「子供」に買い与えます。つまりヒットした絵本はいずれも子供に興味を持たせてから親に買わせるのではなく、親から→子供へと興味が移るように商品内容(絵本内容)が考えられているのです。
親はこれまで絵本を買う時に「教育上子供にとって良いか」という基準で絵本を選んでいました。そのため人気のある本とかおススメの本とかで買う事が多いのです。ただ絵本はほとんどが3歳児や4歳児向けに親が読み聞かせをするため、当の親は読み聞かせをする時に内容に退屈しています。それは親自身が「共感できるか」という目線で絵本を選定していないからです。
それに対し大反響の絵本は親も一人の人間として絵本に共感できる内容です。自分が親として共感できたからこそ子供にも買ってしまうのが消費者心理というものです。あるサイトで「ママばおばけになっちゃった」を何歳の子供に読み聞かせましたか?というアンケートでは、3歳や4歳児よりもダントツの1位は大人である自分自身という回答でした。アート性の高い絵本「えんとつ町のプペル」も癒されるとして本を買い求めたのは、大多数が若い女性でした。つまりこれらの大ヒット絵本は大人が「オトナ買い」していたのです。
3.ヒットアイデアを出すために最初にすること
これらのヒットから「絵本は子供のために買うものではなく、大人が自分のために買うもの」という新たな商品ニーズが生まれていると読み取れます。これらの傾向は自然な流れで生まれたものではなく、出版社が時代が求めている絵本をいち早く汲み取り商品戦略として組み込んだ結果です。貴社が商品戦略を立てるならこれまでの業界の常識を疑ってみることが、最初にすべきことです。そうすればヒット商品開発のヒントが見えてくる可能性は高いのです。
かなり前に「一杯のかけそば」という童話が大ヒットしました。貧しい親子3人が一杯のかけそばを分けて食べるという涙を誘う物語です。作者の偽装問題もありましたが映画化もされるなど社会現象になり読み聞かせをする講演会には多くの大人がつめかけ涙を流す光景がTVでも放映されました
圧倒的にターゲット数が少なかった子供の読み物である童話や絵本も、消費者ニーズをしっかりと組み込めばヒットする可能性が十分にあるということです。大手が市場のハブとな一元化が進む中で 特にベンチャー企業や中小企業は市場戦略を巧みに組み込んだ商品力がなければ生き残っていけない時代です。
どこでも買える横並び商品づくりではない新たな活路をアイデアによって生み出す企業力をつける。これが空前の絵本ブームから読み取れることであると思います。

この記事を書いた人/五丈凛華